Vocaは、シンプルなUIでありながら、複合的な処理が施せるボーカル専用プラグインです。ボーカルは表現力が豊かでダイナミックなため、音量変化が激しく、ミキシングも難しい場合が多々あります。Vocaはこのような複雑で難解な処理を、むやみに悩むことなく適切に処理できるようデザインされています。
 
Vocaができること
 
① オート・インプット・レベルによる音量調整の自動化
いわゆる「手コンプ」と呼ばれる作業を自動化する機能で、曲のセクションやフレーズ間の音量を透過的に一定にします。ボーカルは音量を一定にすることで、コンプレッションやサチュレーションが、特定の箇所にだけかかり過ぎるようなことがなくなり、曲全体を通して安定感のある一貫したキャラクターを実現することができます。
- Input(Input Volume)
入力の音量を調整できますが、Auto Input Volumeをオンにすると無効になります。
- Auto(Auto Input Volume)
フレーズや曲のセクション間で音量が一定であることを確認し、後で適用するコンプレッションが一貫したキャラクターと動きを持つようにします。Input Volumeノブの薄紫色のリングは、Autoがどの程度音量を調整しているかを示しています。
- Optimise
ほとんど使用する必要はありませんが、ボーカルが小さすぎたり大きすぎる(Input Volumeノブの内側の薄紫色のリングが左右一方に極端に固定されたままになっている)場合、OptimiseをオンにするとAuto Inputのターゲットレベルを調整してくれます。また、Optimiseをオンにすると、コンプレッション・セクションとサチュレーション・セクションの内部ヘッドルームも調整されます。
- Output(Output Volume)
すべての内部処理が施された後のボリュームを調整できます。DAWのトラックフェーダーを使用せずにボーカルのボリュームを変更する必要がある場合のみ使用します。
 
② 2段階コンプレッションでニュアンスをコントロール
VOCAのコンプレッション・セクションは2つのコンプレッサーで構成されています。
1つめはボーカルに素早く反応するコンプレッサーで、2つめはゆっくり反応するコンプレッサーです。
この構成は、クラシックなFET系の1176とオプト系のLA-2Aシリーズとの組み合わせに似ていますが、Vocaのコンプレッションは、古いハードウェアの正確なエミュレーションに縛られるのではなく、ボーカルによく使われるさまざまなFETやオプト・スタイルのコンプレッサーからヒントを得て作られています。
例えば、ある設定ではTube-Tech CL-1Bのように感じられ、別の設定ではElysia Alpha Compressorのように感じられます。また、Saturationモジュールも組み合わせることでFederal AM-864のように感じられることも。目の前のボーカル・トラックに対して最適なコンプレッションが呼び出せるのが、ほかのプラグインと明確に違います。
さらにVocaのコンプレッションは、安定度(縦軸)と質感(横軸)をXYパッドで簡単に調整することが可能。また、後述するサチュレーション・セクションで効果的な歪みを加えられるよう、どんな信号にもクリーンな結果をもたらすように設計されています。
- Stabilise
垂直方向にドラッグすることで、全体のコンプレッション量を変化させ、ボーカルのサウンドの安定度(強度)を調整します。高く設定するとコンプレッションが強くなります。
- Squish
水平方向にドラッグすることで、コンプレッションされたボーカルのキャラクターを変化させます。右に動かすと、レスポンスが速く、アグレッシブにコンプがかかります。左に動かすと、コンプの立ち上がりが遅くなり、さまざまなキャラクターを使い分けることができます。
 
③ 多彩なサチュレーションでほどよい歪みを付加
ボーカルが楽曲に埋もれずミックスするためにもサチュレーションは欠かせません。
歪み度合い(縦軸)と歪ませる焦点(横軸)をXYパッドで調整することで、サウンドのリッチさや押し出し感が変化します。
- Saturate
垂直方向にドラッグして歪みの度合いを調整できます。高く設定すると濃密で複雑でリッチなサウンドになります。
- Focus
水平方向にドラッグすると、ボーカルのフォーカスを調整できます。左に動かすと温かみが増し、輪郭が弱くなり、ボーカルが後方に押しやられます。右に動かして高く設定すると、明瞭さと空気感が増し、ボーカルが前方に押し出されます。
 
④ 耳障りな音と過剰な歯擦音を抑制
コンプレッションやサチュレーションをかけた後の、特定の母音がきつかったり、歯擦音が大きかったり、ボーカルに注目しすぎるような硬さがあったりと、特定の単語や単語の一部がミックスの前面から突出して聴こえることがあります。このセクションではそのような耳障りな音を抑制することができます。
- Soften
Softenノブを上げると、ボーカルのトーンを再形成し、特定の単語でボーカルが目立ちすぎる原因となる耳障りさや歯擦音を軽減することができます。
内部ではどんな処理がされているか?
 
信号の流れ
Softenの位置
VocaのUIを見るとSoftenが最終段階で処理されているように見えますが、信号の流れからわかる通り、実はコンプの前で処理されています。
コンプとサチュレーションを通した後のわずかな耳障りな音や歯擦音は、最終段階でSoftenを使うことで改善されますが、ボーカルに明らかに大きな歯擦音が含まれている場合、最初に処理をした方がきれいにコンプがかかり聴きやすくなります。そのため、Softenはコンプの前に置かれているのです。
何がOptimise(最適化)されるか?
Optimiseをクリックすると、自動入力の信号を元に2つのコンプレッサーのスレッショルドとサチュレーションのヘッドルームが調整されるという最大限のメリットが得られます。