ミックスをしていて、「この音、存在感がないな」と漠然と感じたとき、みなさんはどうしていますか?
音量を上げれば良いというわけでもなければ、他のトラックと帯域が被っているわけでもない。
果たして音が細いのか、輪郭がくっきりしないのか、他のトラックから浮いてしまっているのか...とにかくどこか微妙!
そんな時に「サチュレーション」について考えたことはありますか?
何となく微妙なトラックに僕が唯一持っているサチュレーションプラグインと言われるものを使用すると、「何だか良い感じになった!」と思う時と、イメージした音にならない時があります。
「サチュレーション」について、歪み?倍音?音を汚す?というぼんやりしたイメージはありましたが、「サチュレーションを加える」ということはつまるところ何を指すのか気になりました。
そこで、社内の先輩方に聞いてみても「チューブっぽい暖かみ」「テープのイメージ」「倍音感」「全体が馴染むようなサウンド」「アタックが強くなるかな」などイメージは様々でした。
ということで、今回はサチュレーションの正体と目的について、3つのプラグインの仕組みを比べながら考えていこうと思います!
- どの実機を選ぶ?
Decapitator 5 は1つのプラグインの中に5つの実機モデルが集約されています。A, E, N, T, Pはアナログ機材メーカーの頭文字...?
まずは、好みのキャラクターになる「STYLE」を選択して、他のパラメータをいじりながら再選択するのもありですね。
- ささやかな歪みも過激な歪みも
これはサチュレーションプラグインとしてご紹介していますが、「DRIVE」の幅は広いです。
10まで上げると、激しく歪みます。また、「PUNISH」のスイッチをONにすると、強烈なディストーションサウンドに様変わりします!
- 変化した音のキャラクターを補正
音が歪むと、それまでちょうどよく感じていた高域が耳障りになってしまったり、低域がふくよかになりすぎる場合がありますよね。
そういう時に、ローカットやハイカットを利用して聞きやすい、ミックスしやすい音にしましょう。また使用するトラックの楽曲全体における役割を考えて、TONEをDARK〜BRIGHTに調節すると良さそうですね!
また、ローカットはどこまでカットするか帯域を指定するだけになりますが、「THUMP」のスイッチを入れることで「カットしすぎ」を防いでくれます。低域をバッサリ切りたくない時におすすめです!
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- テープスピードと音質
昔のレコーディングでは、テープレコーダーが使用されていました。
テープ録音では、テープの回転する速度が速いほど同じ情報量に使うテープの長さ=面積が大きくなるので、音がクリアになりHighに伸びがあるサウンドになるそうです。
反対にテープの回転する速度が遅ければ、クリアな音質が損なわれ中低域の密度が大きいサウンドになるとか。
このように、テープの速度を変えることで音質も変わるんですね。
MAGNETIC IIは、このようなテープを通した際の音質変化とアナログ機器への過大入力で飽和した際に生じるわずかな歪みを利用できます。
- 音質の劣化は悪ではない!
上で説明したような特徴を見ると、テープの回転速度を遅くしたら音質が悪くなっちゃうの?と不安に思うかもしれません。
しかし、ミックスをする時、楽器の編成や目指すサウンドによっては、「音質が綺麗すぎて浮いてしまう」というシチュエーションもあります。そして、それがミックスにおける「それぞれのトラックが馴染まない」という悩みの原因だったりもします。
こういう場合に、サチュレーションによって暖かみを増しながらテープの回転速度「REEL SPEED」を調整することによって、ただ浮いて目立ってしまうのではなく馴染みながら存在感のある音に仕上げられそうですね。
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さあ、ここで答え合わせではないですが、そもそも「サチュレーション」という言葉を調べてみると、「飽和」という意味を持つので、ここまでで説明した2つのプラグインにあるような「過大入力による飽和状態で生じる歪み」と結びつけることができますね。
それでは、サチュレーションを求めるとき、誰もがこの「わずかな歪み」を求めているのでしょうか?ひょっとしたら「サチュレーションがほしい」と思ったとき「MAGNETIC II」でご紹介した「テープの劣化」という側面を求めていた方もいるかもしれません。
そこで、次はさらに異なった視点のプラグインを見ていきましょう!
- 倍音ってなんだっけ?
僕たちが聞いている音は、基音、二次倍音、三次倍音...というように複数の周波数帯の成分から成り立っていますよね。(倍音成分が限りなく0に近い場合もあります)
そして、基音は音程として聞こえますが、音のキャラクターを決定する要因になるのは基音に対してそれぞれの倍音の音量です。
- 偶数倍音と奇数倍音
Cobalt Saphiraの機能をざっくり言うなら、二次倍音、三次倍音、....、七次倍音をそれぞれどれだけ出すかをデザインするものです。
UIを見ると上部に「EDGE」「WARMTH」と書いてあります。
EDGE: 偶数倍音。大きくなるとEQでHighを上げるように鋭さが増し、音がくっきりするようなイメージ
WARMTH: 奇数倍音。大きくなると暖かみが増し、分厚くふくよかな音になるイメージ
この2つの要素に対してそれぞれ センド/リターン をいじることができるので、どのくらいインプットするのか、またエフェクトをかけた音をどれだけミックスするのかを設定することができます。
- EDGEとWARMTHを比較してみた
あるフレーズに対して、2次、4次、6次倍音を加えた「EDGE」のフレーズと、3次、5次、7次倍音を加えた「WARMTH」のフレーズを比較してみましょう。
エフェクトなし
EDGEのみ
WARMTHのみ
「どの倍音を足すか」だけでここまで音が変化するというのは面白いですよね!
このように、倍音を足すことで、歪ませることなく音の輪郭をはっきりさせたり、暖かみを増したりすることができます。もしかしたら、あなたが「サチュレーション」で解決しようとした悩みは、「倍音成分を足すこと」で解決できるかもしれませんね。
今回は、3つの異なる効果を発揮するプラグインをご紹介しながら、人によってイメージが異なる「サチュレーション」について考察しました。
ここで、結論づけるとするならば、「サチュレーション」とは「アナログ機材への入力の飽和、それによるわずかな歪み」です。
しかし、一様に「サチュレーション」を求めていた場面でも、「歪むことにより中低域が膨らむという側面」「テープによる劣化のようなアナログ感の側面」、「倍音が付加されることによるキャラクター変化の側面」など、人によってイメージする側面が違うだけで、いずれも誤った解釈ではないことがわかりますね。(テープを通せばアナログになりますし、歪めば倍音だって増えますからね)
これを踏まえると、自分が「サチュレーション」のどんな側面を求めているかを知ることで、使用するプラグインも変わりそうですね!
最後までご覧いただき、ありがとうございました!