作編曲をしているとき、またはミックスの段階で「この楽曲はどういう空間の広がり方をさせたいか」「空間の中でこのトラックはどういう鳴り方をさせたいか」を考えることがあると思います。
極端に言えば、オーケストラのホールで鳴り響くイメージなのか、自分の耳に張り付くようなイメージなのか、何となく理想とするサウンドの空間ってありますよね。
僕はちょうどダンスポップのAメロなどでありがちな「ボーカルを近くに感じつつも残響だけはすごく広いホールで鳴っているようなリッチなリバーブ」を再現したくて、自分に合ったリバーブエフェクトを探していました。(伝わりますかね....)
「こういうボーカルの音作りで自分にあったリバーブを探しているんですけど、上司さん何使いますか?」と聞いた時のことです。
「今の時代って、ルーキーくんみたいにトラックのイメージごとにリバーブ考えたりするんだよね」と上司さん。
どうやら、昔はPCの性能などといった制限から各トラックに直接リバーブを挿すことが難しかったそうです。そのため、BUSに複数のトラックをセンドし、それぞれのトラックで調節するのはエフェクト量だけだったそうです。
こういった背景もあってリバーブの選び方にはとても慎重になった上司さんから、種類の違いを教えてもらいました!
リバーブプラグインと一口に言っても、その仕組みは様々なようです。ここからはリバーブの仕組み3パターンと代表的な製品を紹介していきます。
リバーブの意味をおさらい
まだ便利なプラグインがない時代の音源でも、リバーブを使った音の空間作りは行われていました。それは「物理的に反響音を作り出す」ことです。
部屋の中で手を叩いてみてください。自分の手から直接聞こえた音の他に部屋に響く音がありますよね。リバーブをデザインするとは、意図的にその反響音を作り出すことだと言えるのです
昔はこうやって残響を作っていた
それでは、意図的に反残響を作り出すとはどういうことでしょうか?
一つ目の方法として、金属板(プレート)に向かって音を発することで、プレートから生まれた振動による反響音をリバーブとする方法があり、これをプレートリバーブと呼びます。
二つ目の方法としては、エコーチャンバーと呼ばれる小さな部屋で音を発して部屋の反響音をリバーブとする方法があり、チャンバーリバーブと呼びます。
Waves「Abbey Road Reverb Plates」
プレートリバーブをモデリングしたプラグインの例がWaves「Abbey Road Reverb Plates」です。
A~D、4タイプの金属板を選ぶことができます。
その他には「DAMPER」でダンパーの位置を調節して響きの減衰する時間を調節できたり、「PREDELAY」で残響が発生するまでの時間(元の音の輪郭がぼやけないためにはここが大事だったりしますね!)を調節できたりします。
僕が使用してみた感想にはなりますが、EQのTREBLEを上げていくと金属っぽいシャープさが顕著になり、ボーカルなどの上物との相性も良さそうでした。
→Waves「Abbey Road Reverb Plates」の購入はこちら
Waves「Abbey Road Chambers」
こちらも3種類の部屋から選ぶことができ、それぞれ壁の材質や部屋の設計の違いが現れます。
また、チャンバーの中でどこにマイク、音源を設置するか、そしてそれらの種類など実際に聴きながら設定してみると良さそうです。
「S.T.E.E.D」をオフにしているとチャンバーの部屋鳴りだけですが、これをオンにすることでテープディレイの効果も得られ、連続的な響きではなくても少し空間が広がるようなデザインができます。
規模感の大きなオケの中に混ざると、案外ポツポツとした残響の方がリバーブの飽和感も抑えられるかも?と感じました。
→Waves「Abbey Road Chambers」の購入はこちら
デジタルだからできること
デジタルのリバーブは、アナログのモデリングとは違いリバーブの模倣というよりは別のやり方で残響を再現するというようなイメージですね(実際にメーカーによって仕組みは様々ですが、僕はディレイを連続的にしたようなものをイメージします)
デジタルリバーブはパラメータが許す限り、リアルで起こり得るかどうかに関わらず都合の良い残響を作り出すことができますよね。
不自然なほどに残響の減衰が遅かったり、リバーブに空間系のエフェクトも合わさったりとソフトによってできることの幅は広がります。
Sonnox「Oxford Reverb」
デジタルなリバーブの例として、Sonnox「Oxford Reverb」をご紹介します
Sonnox製品の多くに言えますが、十分すぎるくらいにパラメータが充実しています。
例えば「WIDTH」は、残響音がどれくらい左右に広がりを持つかを調節しますが、アナログモデリングではなかなか自由自在にできないポイントではないでしょうか?(ホールで聞いていたら残響音がセンターに集中しているところは中々想像できないですよね)
また、僕が特に素晴らしいと感じたのはEQです。というのも、Dry / Wet それぞれに対して異なるEQ調節ができるのです!
僕の場合はボーカルに深いリバーブをかけたい時に「モワモワしすぎ」「この帯域はこんなに響いてほしくない」と感じることが多々あります。そういうシチュエーションにはまさにピッタリの機能ですよね!
IR(インパルス・レスポンス)
みなさんはIR(インパルス・レスポンス)ってご存知ですか?
IRデータといって、計測された部屋の残響特性に基づいて「ここで音を鳴らしたらこんな響き方をする」というデータを利用したリバーブもあります。
もしかしたら、あなたが使っている「プリセットを選ぶだけで色んな空間を再現できるリバーブ」はIRを使用したリバーブかもしれません...!
McDSP「Revolver」
IRリバーブの例としてMcDSP「Revolver」をご紹介します。
僕がおすすめするIRリバーブの使い方は、まず自分のイメージするような空間に近そうなIRデータ(Revolverの場合はプリセット)を選ぶことです。Revolverには、部屋だけではなく先ほどご紹介したようなプレートリバーブのIRデータもありますよ!
イメージに近いIRデータを選んだら、そこからはデジタルリバーブとして自在にパラメータを調節してみると良いですね。
また、このプラグインの面白い特徴の一つがPREDELAYをマイナスの値に設定できるところです。これはDryの音をPREDELAYで設定した絶対値分遅らせる効果です。つまり、Wetの音が先に聞こえてくるといういかにも非現実的なサウンドを作り出すこともできます。
ここまで異なる仕組みのリバーブプラグインを紹介しましたが、最後に一つだけ裏技のようなプラグインをご紹介します。
それが、Waves「Oneknob Wetter」です。
Waves Oneknob シリーズは、目的のサウンド(ここではウェットなサウンド)を得るために必要とされる複雑な処理をノブ一つで完結させることができるので、スピーディな作業をしたい方にとって大いに役立つのではないでしょうか?
今回は、ウェットなサウンド作りの要となるリバーブについて、アナログからデジタル、IRまで様々なリバーブプラグインの仕組みについてのお話でした。
ご紹介したような違いからか、リバーブは特に正解がない、どれが自分にとって良いか悩み続けるといった声もよく耳にします。
今回の記事が皆さんの自分に合ったリバーブ探しの役に立てば幸いです!
最後までご覧いただき、ありがとうございました!