「サビでメインボーカルに厚みを出したい」「盛大なコーラス隊を演出したい」と思った時にはもうレコーディングが終わっている...という経験はありませんか?
こういう時、収録済みの素材を加工してあたかも別テイクのように生成できたら便利ですよね。それを可能にしてくれるのがダブリング系プラグインです。
また、上記のような理由でなく、ボーカルやギター、ピアノを特徴的なキャラクターに仕上げたい場合でも、ダブリングを活用できます。
「音が二重になって聞こえるという点で言えばコーラス系のエフェクトも同じじゃないの?」と感じる方もいると思います。
しかし、コーラスプラグインはオリジナルの素材にLFOを適用してピッチを上下に揺らしたものを生成します。そのため、過剰なピッチの揺れが心地悪く感じてしまう場合があります。
一方、ダブラーはオリジナル素材のピッチを揺らすのではなく、ピッチやフォルマント(声帯の太さや声質として感じられる要素)、タイミングなどを丸ごとずらして生成します。
さらに、コーラスプラグインを通った音は中低域が細くなってしまうと感じたことのある方もいるかと思いますが、ダブラープラグインはそのような音痩せが起こりにくいところも魅力の一つだと言えます。
まるで別テイクを収録したかのように、同じ素材を複数パターン生成するのがダブラーです。
つまり、ダブラープラグインに共通するのはその目的だけであり、ダブリングの仕組みはプラグインによって全く異なります。そこがダブラープラグインを選ぶ上で面白いところになりますね!
それでは、どのようなダブリング方法があるのか、個性豊かな3つのプラグインを紹介しながら書いていきます!
内部で複雑なピッチ・フォルマント処理をしているにも関わらず、操作はシンプルで簡単に使えるプラグインがSoundToys「Little AlterBoy 5」です。
オリジナルの素材のピッチやフォルマントをごく自然に変更することで、まるで少しピッチのずれたバージョン、あるいは少し声質が異なるバージョンのようにダブリングを演出するというものです。考え方もシンプルで、あっという間に理想のダブリングができそうですね。
SoundToysは、ピッチシフト/ディレイの名機でもあるEventideのH3000を開発したスタッフが独立して立ち上げたブランド。Little AlterBoy 5もその血統を引き、ナチュラルで音楽的なピッチ・フォルマントシフトができます。また、ピッチ変更をしても音質が安定することから、デジタルなサウンドの中でも自由自在なボイスチェンジャーとして使用できます。
ピッチやフォルマントを変更することにより音が細くなったと感じてしまう場合には、DRIVEで音の太さを補うことも可能です。
ピッチやフォルマントを丸ごと変えることにより、オリジナルの素材と干渉し合うことが少ないため、太くて安定したダブリングができます。繊細なデジタルサウンドの中でダブリングをしたい方、自由自在なボイスチェンジャーとしても使用したい方におすすめです!
ビートルズのダブリングに使用された実機をモデルとしたWaves「Reel ADT」は、アナログなテープサウンドが特徴的なプラグインです。
当時のアビー・ロード・スタジオで実機が開発された際、単純にピッチを変更するだけでは不自然だと感じられたためか、ずらしたピッチを基準にしてさらにピッチを上下に揺らす目的でVARISPEEDのつまみを左右交互にひねるという操作が行われました。この手法の再現として、DAWのオートメーションや外部MIDIコントローラーでVARISPEEDの値を上下することにより、アナログサウンドに馴染む「揺らぎ」や「不安定さ」を演出することができます。
オリジナルの素材とダブリングの素材はそれぞれ自由にパンニングしたり、サチュレーションを加えたりすることができます。オリジナル素材はメイン、ダブリングで生成された方はサブという考え方をする必要はなく、2つのテイクを使って自由にアレンジしましょう。
Reel ADTはアビーロードスタジオで使われた実機をモデルにしているため、暖かみのあるテープ感が特徴でもあります。アナログサウンドの中でダブリングをしたい方、人間の不規則なピッチのずれを大事にしたい方におすすめです!
Sonnox「VoxDoubler」は目的に応じて2つのタイプを使い分けられ、複雑なアルゴリズムが隠されたブラックボックスのようなプラグインです。
「どうやってダブリングをしているか」がプラグイン上に表れておらず、そこにはSonnoxが独自に設計したアルゴリズムが隠されています。従って、ダブリングについて考えることは左右への広がり、オリジナル素材とのMIX割合、ヒューマナイズのみということになり、悩むことが少なさそうですね。
Widen: テイク数を増やすようにダブリングが生成されます。これは左右の広がりも顕著に分かり、「もう1テイク欲しい」と感じた時に使用できそうです。
Thicken: 左右の広がりや数を増すというよりは、厚みを増すという感覚でしょうか。「Widen」のようにわかりやすく別テイクが増えるわけではありませんが、奥行きが出てオリジナル素材を補強したようになります。
Widenで数を増し、Thickenで厚みを増すという処理をして大掛かりなコーラス隊を演出するなんてこともできそうですね!
VoxDoublerはデジタルなサウンドで機械的な手法のダブリングプラグインでありながら、ピッチやタイミングをずらしてヒューマナイズ効果を追加できるため、アナログサウンドの中で使用しても、機械的な不自然さを感じさせません。様々なジャンルや幅広い用途でダブリングを利用したい方におすすめです!
今回はダブリングの良いところと異なるアイデアで作られた3つのダブラープラグインを解説し、それぞれおすすめの使い所を紹介しました。
ダブリングは用途や方法も幅広いことがわかり、自分に合ったダブリングを考えることも楽しみの一つになりそうですよね。今回紹介した3つのプラグインのうち、「自分の曲ではこういう使い方してみたい!」と感じてもらえるものがあれば嬉しいです。
最後までご覧いただき、ありがとうございました!